卒業生からのメッセージアーカイブ ナノ・機能マテリアル

創造への挑戦 Creation for Creation

最先端産業の中枢で活躍する本科卒業生たち。彼らはマテリアル工学科で培った叡智を活かし、それぞれので分野で新しい社会の創造に取り組んでいます。

ナノマテリアルコース 卒業生インタビュー

マテリアル工学科での研究生活が今のエンジニア人生の基礎

― 現在、どのような研究開発に携わっていらっしゃるのでしょうか。

学科では、半導体デバイス・材料研究をテーマにしていた鳥海研究室に所属していました。研究自体の面白さと共に、半導体デバイスの奥の深さ、社会へのインパクトの大きさに魅力を感じ、この分野で仕事をしていこうと思い、現在の会社に就職しました。ここは自動運転システムに代表される半導体チップ開発などに力をいれている半導体メーカーで、私は、マテリアル面から構造設計をして性能の高いデバイスを開発する「デバイス、プロセス開発」に携わっています。
若いうちから「超低電圧デバイス技術研究組合」という産学連携の国家プロジェクトに参加させて頂き、より低い電圧で動作するデバイスを創り出すことで、メンテナンスフリーのセキュリティーシステムを実現するといった、新たなアプリケーションを生み出す最先端の研究に打ち込みました。現在も引き続き、製品展開に向けて日々研究に取り組んでいます。

― マテリアル工学科へ進む学生へメッセージをお願いします。

現在の半導体デバイス開発は、ほぼマテリアル開発といって も過言ではなく、マテリアル工学科で学んできたこと全てが、今に生かされていると感じますね。半導体デバイスに使われるマテリアルはSi, Ge といった半導体からポリマーまで多種多様である上、それぞれの材料のナノ領域での電気特性、熱特性、信頼性、加工特性など、あらゆるマテリアル特性の知識を総動 員する必要があります。
3 年間の研究生活を経験し、あの時研究に没頭できたことは、エンジニアとして働くための基礎を作った、とても大事な時間だったと実感しています。マテリアルには多種多様なテーマがあります。自分に合ったテーマを見つけ、たくさんの学生に、研究者、技術者としての一歩を踏み出していって欲しいと思います。

山本 芳樹

2005年 学部卒業
2007年 修士課程修了
同年 ルネサステクノロジ株式会社(当時)へ入社
マテリアル工学科では鳥海研究室に所属

まずは飛び込んでみよう!
そこには素晴らしい環境が
整っている

― 薄膜技術という研究は、社会へどのようなインパクトを与えるのでしょうか?

私は、物質の第四態である超臨界流体を「場」として利用し、化学反応を使って薄膜を作る技術を研究しています。この技術は、これまでの技術では不可能だった深い溝や複雑な三次元構造内にも均一に薄膜を堆積させ、また材料を充填できるという特徴があります。
現在、PC、スマートフォンなどの電子デバイスは、性能はもちろんですが、タッチパネルや音声認識、指紋認証など、機能面でも飛躍的な進歩を遂げています。今後もさらに新しい機能を実装するには、これまでにない新たなデバイス構造を考える必要があります。電子デバイスは、機能性材料薄膜を堆積させることで作られていますから、どんな部分にも薄膜を堆積できる技術があれば、設計の自由度は飛躍的に広がり、さらに自由な発想で様々な機能を持ったデバイスを作ることができるようになるわけです。

― 研究を進めるうえで心がけていらっしゃることは何ですか?

まずはその道のプロと呼ばれる人にコンタクトして色々教えてもらうこと。これはこれからも続けていきたいと思っています。研究者になった今でも、他大学の先生に自分から相談に伺います。新しい知識を得ることは勉強になりますし、結果として自分のことも知ってもらえます。すると、さらに別の先生を紹介して頂き、別の話を伺うことができたりします。特に若手のうちは、活きの良い研究者は好意的に捉えてもらえるのか、皆さん丁寧に教えて下さいます。そういった方々のコミュニティに入れるようになると、情報量も急増します。
若い学生にも、ぜひ自分から積極的に相手の懐に入り、様々なネットワークづくりをして沢山の経験を積んでいって欲しいと思っています。

(2015年1月取材)

百瀬 健

2003年 学部卒業
2005年 修士課程修了
2008年 博士課程単位取得の上退学。東京大学生産技術研究所へ
2009年 同博士課程にて工学博士取得
2011年から現職
マテリアル工学科では霜垣研究室所属

世界一を意識すること。
そしてまだ見ぬ世界の
ライバルたちを意識すること。

― 谷さんは企業内研究員として、 国家レベルの研究プロジェクトにも参加されていますね。具体的にはどんな研究なのですか?

現在、国が進める世界のトップを目指す先端的な研究開発プログラム(通称FIRST)の1つ、光を用いた半導体集積回路の研究に、マテリアル工学科の和田一実教授をはじめ、様々な企業や大学と共同で取り組んでいます。私が担当するのは、ゲルマニウム発光素子という、本来光りにくい特性を持つゲルマニウムを光らせる研究です。実は日立では、プロジェクトが始まる前の2006年頃から、ゲルマニウムと同様に光りにくいシリコンを原子10層程度の厚さにすることによって発光効率を上げる、という研究を独自にスタートさせていました。私は2009年に入社したのですが、これらの半導体素子製作については、ここで一から鍛えられました。今は素子の設計や、「シリコンをここで何nm(ナノメートル)に薄くして、どの膜を何nmつけて」といったプロセスの設計も行います。

― 研究のどんなところに楽しみや、やりがいを感じていますか?

基本的に全部楽しいです(笑)。世界のトップを目指す研究をやっていて、毎日新しい発見がありますから。一方で、材料の限界を乗り越えるという、非常に難しいテーマでもあるので、どうやったらより良くなるか、というアイデアを毎日考えていますね。実際にやってみても上手くいかないことの方が多いですが、未来の革新的な技術開発に携われるのはとても魅力的です。

― 後輩たちにメッセージをいただけますか?

将来研究者の道を選ぶなら、世界一を意識して欲しいと思います。やはり研究の世界では、他の人と同じことをしていては評価されません。まず、世界のどこがトップに立っているか、そして自分はその研究を追い抜けるのか、追い抜けないなら別のアプローチは何か、と考えることが重要です。未だ見ぬ世界のライバルを少し意識しておくと、自分がどのような研究をすべきかを見きわめる上できっと役に立つと思います。

(2013年2月取材)

谷 和樹

2007年 学部卒業
2009年 修士課程修了。
同年、株式会社日立製作所に入社。
「10年、20年後の未来につながる価値の創造」を目標に設立された中央研究所にて、通信技術分野の基礎・基盤研究を担当。
霜垣研究室所属
株式会社日立製作所 中央研究所
通信エレクトロニクス研究部
技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)研究員

研究計画を立て、夢に向けた第一歩を

入社以来、Siに代わる材料として期待されているSiCを用いたパワーデバイスを研究しています。新材料を用いたデバイスの研究には、マテリアル工学科で 学んだ材料工学や半導体工学の知識が生きているのはもちろんですが、何より、厳しくも暖かいご指導のもと、研究計画を立て実行してきた経験が、今の研究者としての礎となっています。
マテリアル工学科には素晴らしい環境が整っています。皆さんも夢に向けた第一歩を踏み出しましょう!

2003年 学部卒業
2005年 修士課程修了
日立製作所入社中央研究所にて次世代パワーデバイスの研究に従事

材料分野のトップクラスの教員、設備が揃っている学科

修論では有機薄膜トランジスタについて研究していました。自分でデバイスを一から作りこみ当時世界最小クラスのゲート長の有機デバイスの作製に成功した経験は、現在携わっている世界最先端の45nmCMOSデバイスの開発に確実に活きています。
最先端の研究は専門だけでなく様々な分野の知識が幅広く必要になってきます。そういう意味で自分の研究分野であったナノテクだけでなく様々な材料分野のトップクラスの教員、設備が揃っているマテリアル工学科は野望を実現させてくれる環境が整っています

2003年 修士課程修了
株式会社東芝セミコンダクター社入社。システムLSI事業部にてロジックデバイスの研究・開発・量産を担当

「裾野の広い研究者」それが求められるキーワード

修論では高誘電率ゲート絶縁膜についての研究をしていました。入社してからは、光伝送用ICの設計、無線LAN用増幅器の設計と現在の高速無線通信に対す るニーズを捕らえた仕事に携わっています。一見するとマテリアルとは無関係に思えますが、そうではありません。増幅器が製品として形になるまでには多くの分野の研究者が関わります。材料、プロセスを理解しておかなければ、本質的な課題を見失うことがあるのです。一分野で閉じる研究開発は少なく、各階層の理 解を深めることが、今後ますます重要になってくるでしょう。多岐にわたる経験と知見を持った「裾野の広い研究者」。これが新しい分野を開拓する研究者に求められるキーワードではないでしょうか?

2002年 学部卒業
株式会社日立製作所入社 中央研究所にて 通信デバイス設計を担当

大学時代に身につけた、技術者としての基本と基礎知識が不可欠

学部、大学院を通じて新規半導体マテリアルの光物性に関する研究をおこないました。 現在扱っている実用的な光デバイスの材料は、学生時代に研究対象としたマテリアルとはまったく異なりますが、マテリアル工学科で学んだ幅広い材料に関する知識が今では大いに役に立っています。 日々進歩を続けている最先端の分野における研究開発には、新しい知識ももちろん必要ですが、それ以上に、大学時代に身につけた実験の進め方などの技術者としての基本と基礎知識が不可欠であることを痛感しています。

1999年 学部卒業
2001年 修士課程修了
日立製作所入社中央研究所にて通信用光デバイスの 研究開発に従事