卒業生からのメッセージアーカイブ 環境・基盤マテリアル

創造への挑戦 Creation for Creation

最先端産業の中枢で活躍する本科卒業生たち。彼らはマテリアル工学科で培った叡智を活かし、それぞれので分野で新しい社会の創造に取り組んでいます。

エコマテリアルコース 卒業生インタビュー

ここで学んだ知識と経験が自分の可能性と発想力を高めてくれた

― ご自身のお仕事について教えてください。

私は、鉄鋼メーカーの研究所で、建築物や発電・化学プラント等の大型構造物に使用される厚鋼板や形鋼と呼ばれる鉄鋼材料の材質設計に関する研究開発を担当しています。強度や伸び、靱性に加えて、疲労特性や耐食性なども要求されるため幅広い知識が必要です。主にミクロ組織制御を通じて所望の特性を発揮できるように、最適な合金成分設計や製造条件を実験室で検討し、実機ラインでの製品製造に繋げていく仕事をしています。

― 鉄鋼メーカーの研究職を選んだきっかけは?

大学では、銅合金の高温延性に及ぼす微量不純物の影響について研究しました。当時の研究室では鉄鋼やアルミニウム合金の水素脆化も検討しており、わずか数ppmの水素や不純物元素が様々な機械的特性に影響していることを知りました。鉄鋼材料はインフラや大型構造物など社会の安心・安全を支える重要な素材であり、そのような材料を一から造ることを通じて、社会に貢献できる仕事に携わりたいと考え入社を決めました。

― ここで学んだことはどのように生かされていますか?

熱力学、状態図、電気化学、転位論、材料力学などの材料設計に欠かせない理論や基礎知識を身につけることができ、現在の業務でも大いに役に立っています。特に研究室では、不純物の影響を明確にするために、高純度銅合金を自分で溶解・鋳造・塑性加工し、旋盤で引張試験片を造るなど苦労しながら実験していたことが思い出されます。最終的な材料のパフォーマンスを決めるのは、"原料から製品に至るまでの各段階での成分や組織の精緻な制御"であることを学んだことが今でも財産です。

― 学生へのメッセージをお願いします。

マテリアル工学科では、金属材料、セラミックス、半導体、ポリマーなど様々な材料の基礎を学んだ上で、興味を持った材料を深く研究することができ、社会に出てからも応用範囲が広い学科だと思います。他分野・材料の基礎を知っていることが、自分の引き出しを増やし、発想を豊かにしてくれると信じています。

大坪 浩文

2003年 マテリアル工学科 卒業
2005年 マテリアル工学専攻 修士課程修了
同年 JFEスチール株式会社へ入社
マテリアル工学科では菅野研究室に所属

自らの手で社会に役立つモノを創り出してゆきたい

― 鉄鋼メーカーに就職を決めたきっかけは?

産業の基盤は素材であり、中でも鉄鋼材料は、自動車や家電、造船、建築等、非常に幅広い産業を支えている素材です。一方で、例えば現在実用化している鉄の強度は、理論上の半分にも到達しておらず、まだまだ大きなポテンシャルを秘めています。広く世の中を支える鉄鋼材料の可能性を実際の製造現場でどうやって引きだしていくか、そこにやりがいを見出だしたのが入社のきっかけでした。

― マテリアルで学んだことはどのように生かされていますか?

業務上、熱力学や反応速度論、移動現象論などの基礎学問に加え、精錬や凝固・鋳造、材料組織学といったメタラジーをよく使います。私が現場技術者として大切にしているものは「現場・現物」と「原理・原則」の2つ。製造現場で起こる現象を正確に把握し、それを原理・原則に従って正しく理解して課題解決に繋げ、より良いモノをつくり出していく。そのためにはマテリアルで学んだメタラジーが必要不可欠です。今でも分からなくなると当時の講義資料などを読み返しますが、大抵そこに何かしらのヒントが書いてある。実際に現場で実務を経験したことで、「あの時先生が仰っていたのはこれだったのか」と、改めて理解が深まります。

― 進学に悩む学生へ一言お願いします。

マテリアル工学科で学ぶ内容は、どれも社会とダイレクトに繋がっているものばかりです。今学んでいる学問がどのように社会で使われているのか、この研究が上手くいけば世の中がどれだけ良くなるのかを、実際の製造現場も見つつ、出来るだけ具体的にイメージして取り組んでみてください。自らの手で世の中のためになるモノを創り出していく、それこそがモノづくりの醍醐味であり、マテリアル工学科はそれを体感するにはこれ以上ない環境が整っていると思います。

加藤 大樹

2005年 学部卒業
2007年 マテリアル工学専攻 修士課程修了
同年 新日本製鐵株式会社(当時)へ入社
現在は、製鋼工場の現場技術者として、工場の生産性向上や新商品開発等の業務を担当
マテリアル工学科では小関研究室に所属

材料科学とプロセス工学の
両輪を使いこなして、
環境問題に貢献したい

― 先生の「高温マテリアルプロセス」の研究は、どのように環境に貢献するのでしょうか?

製鉄というのは巨大産業ですから、CO2 排出量の削減、エネルギーの有効活用、リサイクルなど、環境に関わる要請は数限りなくあります。これらの問題を「高温マテリアルプロセス」という切り口から考えるのが、私の研究です。
具体的には、基礎面から、高温の炉内での反応速度や精錬反応がどこまで「きれいに」進行しているか、溶けているものの性質を原子構造から解明できないかなど、複雑な反応プロセスを物理・化学の両面からサポートします。
応用面ではリサイクル技術の開発。例えば鉄スクラップのリサイクルでできる「ダスト」と呼ばれる副産物の活用です。処理して廃棄するには1 トン2 万円程かかりますが、ここに含まれる亜鉛は逆に1 トンが25 万円。高温プロセスを用いて高純度で亜鉛を回収できないかという、誰も成功していない世界初の技術開発に、改めて取り組んでいるところです。

― マテリアル工学科へ進む学生へ一言、お願いします。

学生時代、自分で主体的に学問や研究に没頭できると、「これだけはやった」という自信を持てますね。その経験があれば、社会に出ても頑張れます。学生にも「集中と切り分け」と言っています。遊ぶことももちろん大事ですからね。 マテリアル工学科の研究フィールドはサイエンスからエンジニアリングまでとても広いので、新しいテーマに積極的に挑戦して欲しいですね。化学や物理から体力勝負まで( 笑)、ワクワクするような面白いテーマがたくさんあります。研究する中で、「材料科学」と「プロセス工学」の面白さを学び、新たな視点でプロセス面から環境問題に取り組んでくれるような学生に沢山来てほしいですね。

(2015年1月取材)

松浦 宏行

2001年 学部卒業
2003年 新領域創成科学研究科 物質系専攻修士課程修了
2006年 新領域創成科学研究科 物質系専攻博士課程修了 博士(科学)
2006-2007年:米国Carnegie Mellon University Research Associate
2007年から東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻において
助教、講師を経て、2012年より現職
マテリアル工学科では月橋研究室に配属

材料が主役 
そして、それを違う分野の最先端のものと組み合わせると、すごく新しいものができるんじゃないかと思う。
そんなポテンシャルのある学科ですよ。

― 寺澤さんは当時の新日鉄に入られて10 年目と伺いました。これまで担当されてきたお仕事について教えてください。

入社当時から、鋼管をつくる工場の配属になりまして、それ以来鋼管工場の運営に携わっています。私が主に担当しているUO鋼管というのは、天然ガスのラインパイプとして用いられるのが約90%。残りの10%は化学プラントの配管、構造用の鋼管として使われています。わかりやすい例ですと、東京スカイツリー®の構造部材として用いられていますね。あのスカイツリーを実現させるためには、高強度で、かつ伸びを改良した鋼材が求められました。

― 具体的にはどういうことを担当されているのですか?

もともとUO鋼管というのは天然ガス関係のラインパイプですから、非常に過酷な環境に強い鋼材です。二千数百メートルの深海や、マイナス数十度の北極圏でも安定してガスを供給することが出来ます。ただ、お客様のニーズはコストや強度を含め、時々刻々と変わります。営業部隊からお客様のニーズを聞いたり、商社からマーケット環境を教えられたり、あるいは自分で海外のお客様をまわって、技術屋としての対話の中から要望を探ったりしながら、中長期的に工場の開発計画を立てたり、設備導入に関わったりする業務を担当させていただいています。

― マテリアル工学科へ進む学生へ一言、お願いします。

マテリアル工学科って、ややもすると関連性のなさそうな3つのコースが並んでいると思うんですが、私が社会人になってみて感じるのは、久しぶりに当時の友人に会うと、全然違う分野の人たちが、徐々に会社の中でのポジションが上がっている。そこで自分たちの最先端のものを組み合わせれば、これは何かすごく、新しいものができるんじゃないかって思ったりするんです。そんなポテンシャルのある学科じゃないのかな。数年後とかに君たちと、ひょっとすると20 ~ 30 年後になるのかもしれませんが、一緒に仕事をする機会が出てくる事もあるかもしれませんね。そんな素敵な学科だと私は思っています。

(2013年2月取材)

寺澤 崇

2003年 学部卒業
同年、新日本製鐵株式会社(当時)に入社。
鋼管部にてUO鋼管の製造工場、その後スパイラル鋼管工場を兼務し、現在に至る。
足立・松野研究室所属
新日鐵住金株式会社君津製鐵所
鋼管部 大径管・防食技術室主査

ワクワクする未来を実現するための挑戦と習得の場

学生時代は、環境の「見える化」を目的に金属の資源循環把握の研究を行っていました。在学中、米国海洋大気庁の研究所に共同研究者として留学したことは学生時代の貴重な経験であり、色々な文化や知識を持っている人とのコミュニケーション方法を肌で学ぶことができました。現在は鉄鋼メーカーで連続鋳造機の操改善を担当しています。この工程は製鐵業所全体の生産量と品質を大きく左右する要であるので、非常に神経を使いますが、マテリアル工学科の先生達の厳しくも温かいご指導で培った知識と経験が改善を実行する礎となっています。

2007年 学部卒業
2009年 修士課程修了
新日本製鐵株式会社室蘭製鉄所にて 連続鋳造機の操業・品質改善に従事

学生時代に培った知識と経験を活かそう

重工メーカーに入社し、原子力発電用蒸気タービンの計画・設計業務を担当しています。毎分1800回転する大型回転機械においては、材料工学に裏付けられた最適なマテリアルを用いることが、安全性・機能性向上に繋がります。最近では、コスト競争力強化の一環として計画段階から材料製造プロセスの最適化に取り組む機会が多くあり、学生時代に培ったマテリアルに関する知識と経験が大いに活かされています。

2009年 修士課程修了
三菱重工業株式会社入社
高砂製作所にて原子力用蒸気タービンの基本計画及び設計を担当

材料の知識、実験の経験、データの解析や発表に費やした時間は大きな糧

鉄鋼メーカーに就職して高炉の操業を担当しています。1日1万トン以上の溶銑を生産し続ける内容積5千m3の中身の見えない巨大な反応器を相手にし、最適な操業条件を見つけるべく様々な課題を解決していくこと、技術的な前進に貢献していくことにやりがいを感じています。製造業で働く私にとって、マテリアル工学科で学んだ材料の知識、毎日手を動かして実験した経験、データの解析や発表のために費やした時間は大きな糧となっています。

2003年 学部卒業
2005年 修士課程修了 JFEスチール入社
東日本製鉄所京浜地区製銑部にて 高炉の操業を担当

学生時代に培った知識と知恵で、新しいフィールドを切り拓く

鉄は、紀元前の昔から現在にいたるまで進化を続けています。より強靭に、そして安全に。要求される品質の向上は留まるところを知りませんが、鉄はそれに応えるだけのポテンシャルを秘めているのです。たとえば、ナノレベルで組織を制御することにより、これまでの常識を打ち破るパフォーマンスを発揮。我々の仕事は、製品となったときに秘められた鉄の能力が開花するよう、原料段階の鉄を作り込むこと。それはまさに、鉄に「DNA」を組み込む作業です。この、新たなDNAの開発には、広大な未踏の領域が広がっています。私は、材料学の専門家として、これまでマテリアル工学科で培った知識と知恵で、新しいフィールドを切り開いて行きたいと思っています。

1997年 学部卒業
2002年 博士課程修了
新日本製鐵株式会社入社
技術開発本部で 製鋼プロセス研究を 中心に担当。

課題に直面した場面で活きる、材料工学に関する知識・知恵・経験

入社以来、自動車用高強度鋼板の開発に携わってきました。ものを作りそれを世の中に出すことの大変さを味わいつつ、そのときに得られる大きな喜びに魅せられています。車の燃費改善と衝突安全性向上の両立のために、鋼板には高強度と高成形性が求められています。工場では「トン」オーダーで作られる鋼ですが、製品の中身はいまや「ナノ」レベルでの組織制御がなされています。素材メーカーでは様々な課題に立ち向かうとき、材料工学に関する知識と知恵、経験が様々なフェイズで活かされます。

2001年 修士課程修了
川崎製鉄(現JFEスチール)入社
スチール研究所にて自動車用高強度鋼板の研究を担当