卒業生からのメッセージアーカイブ バイオマテリアル

創造への挑戦 Creation for Creation

最先端産業の中枢で活躍する本科卒業生たち。彼らはマテリアル工学科で培った叡智を活かし、それぞれので分野で新しい社会の創造に取り組んでいます。

バイオマテリアルコース 卒業生インタビュー

まだない薬を求める患者さんに薬を届けたい。

― ご自身の仕事内容についてわかりやすく教えてください。

経口投与製剤の新薬開発に携わっています。薬が世の中に出るためには臨床試験(治験)を実施し、その薬の安全性や有効性を確認する必要があります。私はその臨床試験に使用する薬(治験薬)の開発を担当しています。薬の有効成分の物性や対象とする適応症などを考慮して適切な剤形(錠剤、カプセル剤、散剤など)およびその処方と製造方法を選択し開発していきます。この段階で開発されたものが最終的には世の中に出る製品につながります。そのため、患者さんが服薬しやすい製剤になっているか、将来長い期間に渡り安定的に生産・供給のできるような処方・製法になっているかを考えながら仕事に取り組んでいます。
責任の重い仕事ですが、まだない薬を求めている患者さんに薬を届けることを夢見て、日々やりがいを感じながら取り組んでいます。

― 学生へのメッセージをお願いします。

製剤の開発には化学、生物学、物理学など様々な分野の知識が必要とされます。マテリアル工学科では材料という分野をベースに無機化学から有機化学、バイオマテリアルのことから電子デバイスのことまで幅広い知識を身につけることができました。このような経験から、入社後も異分野を融合させて考えることに抵抗感なく取り組めていると思います。またここでは、コース進学後も他コースの講義を受けることができます。バイオマテリアルのことを学びながら鉄鋼材料や電子デバイスのことなどを学ぶことのできる機会は、とても貴重だと思います。
変化の目まぐるしい昨今、様々な分野の知識を持ち、変化に対応し、かつ利用できる人材が求められます。そのような人たちがマテリアル工学科から巣立ち、様々な分野において活躍し、将来一緒に仕事ができる、そんな日が来るのを楽しみにしています。

東 亮太

2013年 マテリアル工学科卒業
2015年 マテリアル工学専攻修士課程修了
同年 アステラス製薬株式会社へ入社
マテリアル工学科では片岡研究室に所属

新たな世界を切り拓き、人々の役に立ちたい。

― 入社のきっかけについて教えてください。

 修士1年の入院・手術の経験から、「研究よりも、もっと患者さんや現場に近いところで自分の知識を役立てたい」という気持ちから、企業での就職を決めました。しかし、ただ漫然と大企業に行くのは「何か面白くないな」と。そんな頃、マテリアル工学科の片岡教授(当時)が中心となり、文科省プロジェクトとして東大内に立ち上げた「医療ナノテクノロジー人材養 成ユニット」という人材養成プロジェクトに参加させて頂き、第一線の方々の講義を受ける機会を得ました。そこで、再生医療のテーマで魅力的な講義をする方がいて、「自分がやりたかったのはこれだ!」とすぐに直感しました。それが今のボスとの出会いです。「大企業へ行ったとしても、これだけ尊敬できる人にはなかなか会えないだろう」と思うくらい、とても尊敬できる人です。この出会いを信じて、今の会社に入りました。
ティッシュ・エンジニアリングという新規産業の立ち上げに奮闘しつつ、充実した毎日を過ごしています。

― マテリアル工学科へ進む学生へ、メッセージをお願いします。

 「どう製品化するか」、「どうやって規制をクリアするか」、「どう製造コストを抑えるか」、そういう発想で、幅広い視野から考えることができるのは、この学科ならでは。マテリアル工学科の研究領域はすごく幅広いですよね。基礎研究から応用まで学ぶことができたことが、今とても役立っています。
個人的には、「仕事というのは、誰かの役に立つこと」だと思っています。自分がやりたいことが人の役に立つなら、言うことなしですよね。学生さんにも、そういう意識を持って社会で活躍して欲しい。そんな後輩がいてくれたら嬉しいです。

(2015年1月取材)

浅沼 良晴

2007年 学部卒業
2009年 修士課程修了
同年、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)入社
研究や製造、海外勤務等を経て現在に至る
マテリアル工学科では石原・高井研究室に所属

新規ゲル材料の創製により、医療に革新を。

― ご自身の研究内容について教えてください。

私は、高分子ゲルという材料の研究をしています。高分子ゲルとは、三次元状の網目構造を作った高分子が水などの溶媒を含んで膨潤したもの。特にハイドロゲルは、ゼリーやソフトコンタクトレンズなど、人の生体組成に近いバイオマテリアルとして身近に利用され、非常に高いポテンシャルを持つ一方で、力学的強度が低く、物性の制御が困難なため、材料としては未成熟の分野でもあります。

私たちの研究室では、ゲルの物性を精密に制御することにより、バイオマテリアルとしての実用化を目指した研究を行っています。

― ゲルの世界的な研究動向について教えて下さい。

ゲルを強くすることが世界的なブームですが、強いだけでなく、壊れても自己修復するようなゲルも開発されています。また、ゲルは再生医療の際の足場材料としても注目を集めており、多能性細胞の増殖や分化を制御する研究も多く行われています。近年では、Science やNature などのハイ・インパクトなジャーナルに多くのゲルの研究が掲載されています。

― 進路に悩む学生へメッセージをお願いします。

私がマテリアル工学科に進学した大きな理由は、自分の可能性が一番狭まらない場所だと思ったからです。進振りでは進路にだいぶ悩みましたので。

マテリアル工学科では、金属に始まり、プロセス論、半導体、エコ、果てはバイオまで非常に他分野のことを学ぶことができます。当時は、色々ときつかったこともありましたが、今となれば、材料全般について広範な知識を持っていることや、材料工学の視点を持っていることは、自分の強みだと思います。是非、マテリアル工学科で、自分の可能性を広げてみませんか?

酒井 崇匡

2002年 学部卒業
2004年 マテリアル工学専攻修士課程終了
2007 年 マテリアル工学専攻博士課程終了
同年 マテリアル工学専攻特任助教
2011年 バイオエンジニアリング専攻助教
2015年 バイオエンジニアリング専攻准教授
マテリアル工学科では吉田研究室に所属

マテリアルがあって、
そこから何かが始まる。

― 宮田先生は東京大学医学系研究科でドラッグデリバリーシステム(DDS)研究に携わっていらっしゃいますが、具体的なご研究内容を教えてください。

私の研究は、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーが完全に融合したナノバイオテクノロジーという領域です。僕らの世代は、「医学」と「工学」を最初から連携させる形で学んできましたので、まさに『ナノ医療工学』ですね。近年、数多くの疾病が、遺伝子の働きがおかしくなることで生じることが分かってきています。そこで、おかしくなった遺伝子の働きを元に戻すことができる「核酸医薬」、あるいは遺伝子そのものをデリバリーするという、いわば第二世代のDDSを研究しています。

ミセルというのは、多ければ100個以上の分子が集まってカプセルのような球状の粒子を作るのですが、100 ナノメートル(nm)より50nm、50nm よりも30nm というような、ミセルのサイズを小さくすることによって、がんに劇的に効く、という結果が研究レベルで得られてきています。ミセルの大きさを小さくすることで、革新的な抗がん剤DDS の開発につながる可能性がある、ということなんです。ただ、小さくなりすぎると、腎臓から速やかに排泄されてしまったり、正常な組織にも影響を与えてしまうので、ある程度患部に行きやすいサイズにすることが重要だと考えています。そして今、ナノバイオテクノロジーによって、1nm オーダーでの精密な サイズチューニングが可能になってきています。この技術に基づいて、DDS をさらに進化させることができると確信しています。

― 先生の将来の夢はなんですか?

核酸デリバリーの研究分野が始まってから、既に20 年近くが経過しているのですが、実はいまだに本格的に実用化されたものはないんです。このような現状を打破するためにも、自分の研究をトリガーにして、日本発・世界初となるような革新的なDDS を世の中に出したいですね。

(2013年2月取材)

宮田完二郎

2001年 学部卒業
2003年 材料学専攻(マテリアル工学専攻の前身)修士課程修了
2006年 マテリアル工学専攻 博士課程修了
卒業後、東京大学 大学院医学系研究科
附属疾患生命工学センター
助教を経て、2013 年1月から現職
マテリアル工学科では片岡研究室に配属。

諦めず挑戦し続けることの大切さ

学生時代は、人工臓器などへの応用を目指した高分子材料の研究を行っていました。研究生活を通して、昨日までなかったものを世に送り出す価値やものづくりのために最後まで諦めず挑戦し続けることの大切さを学びました。現在は、食品メーカーで研究開発に取り組んでいます。明日のよりよい生活へ向けて、お客様が"おいしく食べて健康"になっていただけるよう、マテリアル工学科で学んだことを活かし、新たな素材開発にとことん挑戦し続けたいと思います。

2007年 学部卒業
2009年 修士課程修了
味の素株式会社 食品技術開発センターにて和風調味料及び原料鰹節を開発

学生時代に培った知識と経験を活かそう

医療技術の進歩は日進月歩です。患者さんへの苦痛が少ない低侵襲治療技術、病気の早期診断技術、予防医療など医療デバイスの進歩がそれを支えています。それに伴って、医療デバイスにはより高度な機能が要求されるようになってきています。即ち、表面の血液適合性や低摩擦性、薬剤徐放性や効率的な患部への到達性、生体分解性、細胞増殖性といった医療デバイス特有の機能の他、デバイスの小型化・高耐久性のための優れた力学特性、耐劣化性といった特性を含めて高いパフォーマンスを発揮できるバイオマテリアルへの期待が高まっています。マテリアル工学科では、これら高いハードルへチャレンジする魅力的な研究が実施されており、そこでの経験や様々な人との繋がりは私にとって大きな財産となっています。本学科での経験をベースに、患者さんへの苦痛を和らげ、QOLを向上させる「人に優しい医療」を目指した素材開発に取り組んで参ります。

2005年 学部卒業
2007年 修士課程修了
テルモ株式会社研究開発本部にて医療用素材・医療用デバイス表面処理技術開発に従事

学生時代に得た幅広い知識と技術

私は、学生の時に生体適合性マテリアルを用いた細胞機能制御に関した研究を行い、マテリアルの設計・合成から細胞を使った評価までさまざまな知識と技術を身につけることができました。バイオマテリアルという分野はマテリアルに関する知識はもちろんのこと、生体についての知識も必要なので、学生時代に得た幅広い知識と技術は、今の私にとっての大きな財産です。現在研究している化粧品は、人々の健康と美しさを向上させる役割を担っていて、生体へのやさしさが求められるもののひとつです。マテリアル工学科で学んだ知識を活かして日々チャレンジし続けています。

2002年 学部卒業
2004年 修士課程修了
株式会社資生堂入社 マテリアルサイエンス研究センター高分子科学研究所にて生体適合性素材の研究を担当

研究開発の中で活きる、デバイスを前提とした材料学の考え方

私は学生時、DDS(ドラッグデリバリーシステム:薬物の効果を最大限に生かすべく、薬物の放出や体内濃度を制御するシステム)の研究をしていました。現在はDDS用の高分子素材であるポリエチレングリコール(PEG)の研究を行っています。薬物の安定性を向上させるPEGは、DDSにおけるキーマテリアル。現在、このPEGを使用したDDS医薬品は開発段階から上市への過渡期にあり、需要は急速に増加しています。
まだ入社1年ですが、多様な構造を持つPEGの開発、製造プロセス等の検討を担当し、大きなやりがいを感じています。DDSの素材開発は、医学、薬学等様々な分野に関する知識が必要な難しい仕事ですが、デバイスを前提とした材料学の考えはこのような学際的な色合いの強い研究開発を行う中で大きな糧となっています。

2002年 博士課程修了
日本油脂株式会社入社。DDS事業開発部でPEGの研究を中心に担当

付加価値をもたらすマテリアルを創出をめざして

私は現在、たばこのフィルターに関する研究開発を行っています。たばこの煙には数千にも及ぶ成分が含まれており、フィルター中で起こる現象も非常に複雑で、多岐にわたります。それらをミクロな視点から解明し、さらに環境問題にも十分配慮した上で、たばこにより高い付加価値をもたらすマテリアルを創出することが私の仕事の大きな目的です。学生時代には血液透析膜に関する研究をしていましたが、そこで私は実験室での成果を実用的な形にする、「モノ創り」の面白さ、大切さを学びました。それは今でも私の原動力となっています。たばこは大人の嗜好品。お客様により一層喜んでいただけるたばこ創りを目指して、これからも挑戦を続けたいと思います。

2001年 修士課程修了
日本たばこ産業株式会社入社。 たばこ事業本部研究開発 統括部材料応用研究開発部でたばこフィルター用マテリアルの研究開発を中心に担当